映画「8年越しの花嫁~奇跡の実話~」
投稿日:2023年4月15日
カテゴリ:院長ブログ
こんにちは。院長の谷川(脳神経内科専門医)です。
2017年に公開された映画についてです。(感動して何回も映画館で観てしまいました)
3ケ月後に結婚を控えた二人(主演 佐藤健さん、土屋太鳳さん)でしたが、彼女に頭痛、異常行動などの精神症状がでて数日の経過で、ついに発狂しながら倒れ、呼吸停止し昏睡状態となってしまったストーリー(実話)です。
幸せいっぱいの日々から一方が昏睡状態に陥るというとても衝撃的な展開でしたが、彼は献身的に介護し、意識が回復するのを待ち続けました。待つこと2年半、彼女が目を覚まし、徐々に意識も改善して、過酷なリハビリの末に、約束した日からなんと8年の年月を経て結婚式を挙げました。(涙腺崩壊ものです・・)
この病気は、「抗NMDA受容体抗体脳炎」と思われます。(映画の中では病名は言っていませんでしたが)
NMDA受容体とは、脳の中で興奮性の神経回路に存在する受容体です。
発症機序についてですが、卵巣奇形腫や精巣腫瘍などの抗原を認識した抗体が、脳の中の辺縁系(へんえんけい)=人の感情や記憶・情動などを司る部位、のNMDA受容体に作用してしまい、脳の脱抑制が起き、発症すると考えられています(Dalmauら. 2007年)。わかりやすく言うと、腹部にできた腫瘍を攻撃するはずの抗体が間違って自分の脳を攻撃してしまうということです。(本来自分を守ってくれるはずの抗体が「脳を攻撃する」、、なんて怖いですね・・)
下記に私が経験した症例の画像をお示しします。
治療についてですが、原因となった腫瘍の摘出術、ステロイドなど免疫治療が行われます。この映画の中でも卵巣摘出手術が行われています。
どれほどの人がかかるかについて、以前は年間300万人に1人と言われていましたが、近年、抗体検査が確立してきたこともあり、もっと多いものと推定されています。
症状としては、頭痛などの前駆症状から4~5日の経過で、興奮、錯乱、けいれん、呼吸停止などの激しい症状を呈します。
しかしその予後は悪くなく、80~90%が社会復帰し、病前の記憶も徐々に回復すると言われています。ただし、その経過は長いと数年かかることがあります。
頭痛はこんな病気の前兆のこともあるんですね・・。
どんな症状であっても早めにご相談いただき検査することの重要性と、症状がなくても婦人科健診などを受けておくなど予防医学の大切さを思い知らされる病気です。
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